旅の思い出

能登「無名塾」を訪ねて

太子河南支部 柿沼 康隆

ずいぶん前のことだったが、「俳優」仲代達矢夫妻とその仲間たちが、能登半島に『無名塾』という劇団を作ったという報に接した。仲代という人に関心を寄せていた私は、都会から離れた地に劇場を構えたことに興味を覚え、訪ねてみたいと。
今回、仲代が90歳を前に主役を演じるという報に接し、それも私の好きな山本周五郎の作品だと聞いて、昨年9月に訪ねに行きました。

演題は「いのちぼうにふろう物語」=原作は周五郎の「深川安楽亭」である。この作品を仲代の亡き妻宮崎恭子、ペンネーム「隆巴」(りゅうともえ)が脚色したもので、仲代にとって思い入れの強い作品なのであろうと思う。「深川安楽亭」に集う若者たちは「世の中に受け入れられず、はじき出され社会の底辺にたむろする若者たち」だ。
社会からはみ出した若者たちをしっかりと支える主人公、仲代の70年の役者生活の集大成を見る思いだった。

仲代氏は言っている。「私は年に一本は舞台に立つと決め、あしき体制に抗する作品を作ってきました。もうヨレヨレですが…」と新聞のインタビューに答えていました。(赤旗日曜版)
いつまでも頑張って欲しいです。私は「来て良かった」と心から思った。泊まった宿は、能登湾のほとり、仲代夫妻とその仲間たちが選んだこの地域に人間を愛する温かいものを感じた。

2023.3.15 399号より